鉄の基礎用語

 鉄を扱う世界にも、多くの専門用語があります。

 鉄をよく知るために必須の基礎的な用語をいくつか紹介します。


LevelⅠ

●鉄

 金属元素Feが9割を超す金属。それに炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄などの非金属5元素や、ニッケル、クロムなどFe以外の金属元素との合金(アロイ)を含む。

 Feは元素番号26、元素量55.85、比重7.87。純粋な鉄として存在することは隕石を除いてほとんどなく、化合物として土壌、岩石、鉱物の中に存在する。磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱、菱鉄鉱、黄鉄鉱として産出する。

 色は白色で輝きがあり、硬質で溶解しにくく、強磁性で、熱すれば軟らかくなり、さらに熱すれば溶解する。錆びやすい。

 Feとともに鉄・鉄鋼の性質を大きく左右するのは炭素の量。炭素量が少ないほど軟らかくて伸びやすい。炭素量が増えると強さ・硬さは増すが弾力性、伸びは少なくなる。

 リンは鉄をもろくし、硫黄が多すぎると熱したときにもろくなる(赤熱脆性)。リン、硫黄の含有量は、基本的に少ない方がいい。マンガン、ケイ素も鉄の硬さ・強さに影響を与える。一定量のニッケル、クロムなどの特殊な元素を転嫁すると、鉄は粘り強くなりさびにも耐えられるようになる。

 

●鋼材

 鋼に圧延、鍛造、プレス、鋳造などによって成形・加工をした鉄鋼製品の総称。圧延鋼材が圧倒的に多い。

 さらに、2次加工、3次加工された鉄鋼二次製品と区別する場合もある。

 鍛造・プレスしたものを鍛鋼品、鋳造(溶けた鋼を鋳型に流し込み、冷却凝固させる)によるものを鋳鋼品という。

 

●圧延鋼材

 鋼を加熱して圧延機ロールの間を通すことで鍛え、用途に応じて板・棒・形・線・管などの形状に成形・加工する熱間圧延鋼材と、これらをさらに常温で圧延する冷間圧延鋼材がある。

 圧延鋼材の品種は、条鋼・鋼板・鋼管に大別される(通常、製造業者でさらに熱間圧延されることがないもの)。

【条鋼】

〇棒鋼…丸鋼、角鋼、平鋼、六角鋼、半円鋼(または大形・中形・小形)、異形棒鋼、ツイストバー、バー・イン・コイルなど

〇形鋼…山形、溝形、工形鋼、T形鋼、H形鋼、鋼矢板、軽量形鋼、サッシ・バー、リム・リング・バーなど

〇軌条

〇線材…普通線材、特殊線材

 【鋼板】

〇厚板

〇薄板…厚さ3mm未満、薄板、ブリキ、亜鉛鉄板、ケイ素鋼板、表面処理鋼板など

〇帯鋼、広幅帯鋼

 【鋼管】

継目無鋼管、溶接鋼管、鍛接鋼管、電縫鋼管、引抜鋼管など

 【外輪】

外輪、一体車輪

 

●JIS鋼種

 用途によって主にSS(一般構造用)、SB(ボイラ用)、SV(リベット用)、SM(溶接構造用)、SBC(リベット構造用)、SN(建築構造用)などがあり、その他多くの鋼種が規定されている。

 合金鋼としてはSXXC(機械構造用炭素鋼鋼材)、SCM(クロムモリブデン鋼)、SK(炭素工具鋼鋼材)、SKH(高速度工具鋼鋼材)、SUS(熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯)などがある。

 規格に当てはまらないものは「無規格(ムキ)」と呼ばれる。

 

●構造用鋼材

 建築、橋梁、船舶、鉄道車両、ボイラ、一般の大型機械装置に使用される鋼材の総称。

 形状として多いのは、棒鋼、形鋼、厚板など。

 一般構造用炭素鋼鋼材(SS材)

 機械構造用炭素鋼鋼材(SC材)

 ボイラ用圧延鋼材(SB材)

 溶接構造用鋼材(SM材)

 建築構造用圧延鋼材(SN材)

に分類される。

 

●普通鋼鋼材

 普通鋼に圧延、鍛造、プレスなどの一次加工を施した鉄鋼製品。

 

●特殊鋼

 合金鋼・高級炭素鋼と、熱処理を施して使われる高級鋼の総称。

 JISで規定している各種工具鋼、機械構造用炭素鋼、構造用合金鋼、快削鋼、ばね鋼、軸受鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、耐食耐熱超合金、ピアノ線、特殊鋼扱いの高抗張力鋼の各鋼質に該当する製品。またはこれに準じる鋼を総称する。

 【特殊鋼の特徴】

 ①炭素鋼では、普通鋼に比べリン、硫黄、銅などの不純物の含有量が少ない

 ②合金鋼では、国際的に認められる最小限度量の合金元素または特殊元素を含んでいること。

 アメリカ、イギリスでは日本の特殊鋼に該当する鋼種概念はなく、炭素鋼と合金鋼の区別があるのみ。

 

●棒鋼

 長さが断面形状に比べてはるかに長く、断面形状が円形、正方形、六角形などとなっている鋼材。

 切断面の形状によって丸、角、平、六角、八角、半円などの鋼種に分かれ、異形棒鋼(デフォームド・バー)などもある。直径や幅などによって大形・中形・小形の区別がある。丸鋼の場合、ベースとなるのは直径19㍉物。

 

●形鋼

 長さが断面より長く、断面形状が棒鋼よりも複雑な鋼材。等辺山形鋼、溝形鋼、不等辺山形鋼、I形鋼、H形鋼が代表的。

 フランジ(またはウェブ)が100mm以上のものを大形形鋼、50~100mmのものを中形形鋼、50mm未満のものを小形形鋼という。

 大形・中形は建築、鋼構造の主材、小形はベットやケースのフレーム材などに使われる。

 

●薄板

 熱間圧延、冷間圧延した板厚3mm未満の鋼板。

 熱延のあとで冷間圧延した冷延薄板は、熱延のみの熱延薄板と質、用途が異なる。鉄鋼メーカーでは、大部分がコイル状で出荷される(広幅帯鋼)。

 

●熱延鋼板

 熱間圧延して所定の寸法の切板にした薄板。定尺は幅914㍉(3フィート)×長さ1829㍉(6フィート)と幅1219㍉(4フィート)×長さ2438㍉(8フィート)。亜鉛鉄板用は幅762㍉(2.5フィート)×長さ1524㍉(5フィート)。

 材質は、炭素が0.12%以下の低炭素鋼。

●鋼管

 鋼製パイプ。棒鋼を素材として中心部を穴あけした継目無鋼管と鋼板コイル材を鍛接・溶接した溶接鋼管がある。

 断面形状が丸い鋼管と四角な角形鋼管がある。

 大口径管は165mm超、中口径管は65~165mm、小口径管は65mm以下。外径は50A(50mm)などと表示する。

 水道、ガス、石油の配管用から化学工業向けの装置用途、構造用などに広く使われる。

 

●軽量形鋼

 熱間または冷間圧延した薄板(鋼板コイル材)を冷間成形した形鋼。鋼材の軽量化と使用量の削減が主な目的。経済性があることから、かつてはエコン・スチールとも呼ばれた。

 薄板を素材とするので肉薄のものができ、熱延形鋼ではできない複雑な断面形状のもの、長尺ものも製造可能。

 用途は一般構造用、車両用など。

 

●広幅帯鋼

 ストリップ・ミル(厚い鋼板から帯状の薄い鋼板=ストリップを製造する連続式圧延機)で圧延した薄板を、長尺のままコイル巻きしたもの。

 熱間圧延したものを熱間広幅帯鋼または「ホット・ストリップ・コイル」、さらに冷間圧延したものを冷延広幅帯鋼または「コールド・ストリップ・コイル」という。

 アメリカでは、長尺コイル巻きした薄板をストリップと呼ぶが、日本国内では、幅500㍉を基準にしてそれを超えるものを広幅帯鋼、それ以下を帯鋼と呼んで区別している。

 

●表面処理鋼板

 腐食、錆の発生を抑制し、耐久性を高めるために表面に亜鉛めっきや錫めっきを施した鋼板の総称。美観も兼ね備える。

 亜鉛めっき、錫めっき(ブリキ)、TFS(ティンフリー=電解クロム酸処理鋼板。下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物からなる)、アルミニウムめっき、ターンめっき(鉛・錫合金めっき)、銅めっきなどの鋼板がある。

 このほか、塗装鋼板にも溶接可能塗装鋼板(自動車用)、塗装亜鉛めっき鋼板(建材用)、プレコート鋼板(家電用)などがある。

 

●半製品

 鋼塊を次工程の圧延に適した形状・寸法に分塊(ぶんかい)し、粗圧延(あらあつえん)したもの。

 条鋼製品の素材となる鋼片(ブルーム、ビレット)と鋼板製品の材料となるスラブ、シート・バー、鋼管の素材となるスケルプ、フープ、管材などがある。

 


LevelⅡ

開先

 鋼材同士を溶接して繋ぎ合わせるため、それぞれの鋼材の角を斜めにそぎ落とす加工。互いの角のそぎ落とし部に溶接材料を流し込み、つなぎ合わせる。

 

角鋼

 断面正方形の棒鋼。50mm以下を小形、50~100㍉㍍を中形、100mm以上は大形という。

 

角形鋼管

 ホットコイルなどを素材に成形し、1面または2面による溶接を施して製品となる鋼管。直径200mm角以下を中径角、それ以上をコラム(大径角形鋼管)と呼ぶ。コラムは大部分が鉄骨(主に柱材)として使われ、中径角は建築分野のほか土木加工製品、家具用などもある。

 

●ガス管

 JISG3452で配管用炭素鋼鋼管(SGP)と規定される鋼管。ライン・パイプとも呼ばれる。
 主に、使用圧力が低いガス、蒸気、水、油、空気などの配管用に使われる。大半が帯鋼から溶接または鍛接して製造される。透明さび止め塗料を塗布しただけのものを黒ガス管、溶融亜鉛めっきしたものを白ガス管と呼ばれ、端部の両側にねじ切ったものが通常。

 

高張力鋼板

 一般構造用鋼板に比べて引っ張り強度が高く(490Mpa以上)、溶接性、切欠き靭性(材料の一部分を切り抜いたり抜き落とす加工をした部材の脆性破壊=材料に力を加えた際、変形をほとんど生じないまま、割れが広がって破壊に至ること=に対する抵抗)、加工性、耐食性にも優れる。ハイテン鋼板。

 

鋼矢板

 シートパイル。港湾、河川などの基礎工事に使う熱間圧延の大型形鋼。両端の継手を篏合(嚙合わせること)させ、河岸部の崩壊などを防ぐ。かつては木製の矢板が使われたが、鉄に変わった。

 

小型棒鋼(小棒)

 断面の直径が50mm以下の丸鋼、対辺距離が50mm以下の角鋼、幅65mm以下の平鋼などの総称。

 

コラム(大径角形鋼管)

 1辺が200mm角以上の大径角形鋼管。BCR(ロール・フォーミング方式)とBCP(プレス方式)に大別される。鉄骨構造用に用いられる比率が高い。

 

CH用鋼

 コールド・ヘディング(金属の一端を冷間でダイスに押し付けて断面を大きくしたり、複雑な形に成形すること)用鋼。鋲螺、ボルト、スクリュー、リベットなどの製造に使われている。素材には炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼のみがき棒鋼、線材などが使われる。

 

●酸洗鋼板

 熱延鋼板は、製造過程で表面に酸化被膜(スケール)が生じる。これを、塩酸に浸すことで取り除いた鋼板。

 

ショット・ブラスト加工

 加工対象素材の表面に、微細な硬球を噴射してデスケール(鋼の表面に付着したスケールを除去すること)、表面清掃を行うこと。

 

縞鋼板

 厚板の仕上げ圧延段階で、ロール表面に独特の縞目を刻んで鋼板の表面に凹凸を付けた鋼板。階段やステップのすべり止め床用として使われ、床用鋼板とも呼ばれる。

 

定尺

 鋼材の幅と長さは、従来の慣習からフィートが用いられ、板厚はメートル法を用いる。

 板厚3・2mm×(3ft×6ft)の鋼材【3・2mm×(914mm×1829mm)】=3.2×(3×6)と表記

 板厚6mm×(4ft×8ft)の鋼材【6mm×(1219mm×2438mm)】=6×(4×8)と表記

 板厚12mm×(5ft×10ft)の鋼材【12mm×(1524mm×3048mm)】=12×(5×10)と表記

 

電磁鋼板

 ケイ素鋼板とも呼ばれる。電気機器の鉄心などとして用いられる。モータの芯材などとしても使われる。圧延方向と形状によって熱延電磁鋼板、熱延溶接無方向電磁鋼帯、冷延無方向性電磁鋼帯、冷延方向性電磁鋼帯などに分類される。板厚は薄く、一般に0.35mm、0.5mm、方向性鋼帯は0.3mm、0.35mmが一般的。さらに薄い板厚のものもある。

 

在庫率

 生産量、販売量、消費量などに対する各段階の在庫の割合をいう。生産と消費の動向・バランスを見る上で重要な指標となる。

 生産者在庫率は月間の生産量に対する月末在庫の割合。販売業者在庫率は月間の入庫量に対する月末在庫の割合。原材料在庫率は月間の原材料消費量に対する月末在庫の割合。

 

当用買い

 当面必要な分だけを購入すること。市場価格などを見て手持ち品を少なくし、実需に即して必要な分だけを仕入れて商品の回転を重視する仕入れ方法。

 

特殊鋼専業メーカー

 電気炉により特殊鋼の調質、製鋼、圧延を行うメーカー。大同特殊鋼、愛知製鋼、山陽特殊製鋼などが代表。電気炉によってステンレス製品を生産する専業メーカーをステンレス専業メーカーという。